一日助手

「ちょっとお願いがあるんだけどさ、手伝ってくれない?」

ある夜、同居している弟から頼みごとをされた。変わった内容にびっくりしつつも承諾すると、翌日、メールでデータが送られてきた。

Googleカレンダーの予定「撮影日」と、20行程度の「あらすじ」。さらにその後、日を分けて台本や絵コンテも渡されることになる。

ということでこの夏、わたしは、実の弟が監督・脚本・演出・出演をするショートムービーの制作を手伝った。

しかも、わたしが助手を務める場面は全編、「家」の中である。

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夫婦布団(小道具だが生々しくてちょっと引いた)が敷かれた客間にて、休日朝から撮影が始まった。床に置かれているのは、前日一気に書き上げたらしい絵コンテ。

弟は、平日昼間は都内の契約先でソフトウェア開発に勤しむシステムエンジニアだ。職場の人はきっと知らない。この無口な三十路男が、仕事と食事以外のほとんどの時間を、脚本執筆か資料精読か映画鑑賞に当てていることを。

彼がその「つくる」に目覚めたのは、去年のことだった。

生活に煩わされず集中してつくりたい。期間を決めて本気で挑戦したい。だから……と、「家」で暮らすことになったのだ。

おかげで我が家では、物語のあらすじや、キャラクター設定、展開、そのほか映画に関する話題がよく食卓に登る。わたしも時々一緒に考えてきたけど、まさか制作まで手伝うことになるとは。

とりあえず一日限定の助手仕事は、結構楽しかった。お礼に奢ってもらった本格インドカレーも美味しかった。

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ひょっとこ姿で踊る弟をカメラ越しに眺める。3テイクぐらい撮った。テストで自分も踊った。ご近所で噂が立ちそうな怪しい景色。

じゃあ、そんな家族を自分がどう見ているかといえば、素直にすごいなと思う。

毎朝6時から出勤前まで原稿を書き、自分で締め切りを設定しては各所に応募し、制作仲間を探すべくあちこち出かけていく。必要経費も惜しまない。

いつもヨレヨレのTシャツと色褪せた短パン姿で、学生かフリーターにすぐ間違えられる彼は、周りに何を言われても(そもそも言われているだろうか)どこ吹く風。毎日毎日「つくる」ことばかり考えている。

「つくる」ことは、厳しいことだ。

ただ消費するより何十倍もエネルギーがかかるし、その報酬は決して約束されるものではない。自発的に創作しつづけるためには、自分の内側に芯がないといけない。「つくる」ことに挑むと、毎日毎日、自分に向き合う羽目になる。褒められるよりは傷つくことの方が多いだろう。

その姿を横で見ていると、わたしもわたしで、ちゃんと生きなくてはと気合いが入る。

わたしも弟も、可能性が無限にある年齢はとっくに過ぎてしまった。知恵と工夫を上手に味方につけないといけないのだ。

ひたすら笑い、ちょっと疲れた一日助手体験。さて、どんな仕上がりになるのだろう。

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絵コンテがざっくりしすぎててよく分からなかったというオチも。
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