目隠しはいらない

打ち合わせ場所を指定され、不思議な予感がした。

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平日午前11時。

我が家の改装を手伝ってくれた、空間デザイナーのIさん兄弟に呼ばれて、指定された住所へと向かった。わたしの家と同じ市内にある一軒家。呼び鈴を鳴らすと、Iさん兄弟のお父さんが現れ、「あいつらなら向かいだよ」と別の建物に案内された。

わたしが間違って呼び鈴を鳴らしたのはIさん兄弟の実家兼弟さんの自宅(二世帯住宅)で、次に案内されたのは、おばあさんの家らしい。「え、こっち?(実家が会場だというだけでも不思議だったのに)」と思いながら足を踏み入れた。

それは、築40年ちょっとの一軒家。ピアノに編み機、古い箪笥に食器、昭和の香りがする家電。沢山の物で溢れた場所だ。現在も95歳のおばあさんが住んでいて、昔はそこで編み物教室を開いていたらしい。

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そうして、不思議な家の一角で、真面目な仕事の打ち合わせが始まった。コピーライターのMさんや、Iさん(兄)の奥さんでマーケッターのEさんも加わって。

その日の滞在時間は、5時間ちょっと。あーでもない、こーでもないと話し合う合間に、Iさん(兄)の息子さん(生後3ヶ月)をだっこしながらIさんのご両親が登場し、Iさん(弟)の奥さんや娘さん(1歳)と挨拶し、おばあさん(95歳)の食事と服薬のためにIさん(弟)が中座したりした。

つまり、その日は、Iさん兄弟の祖母・両親・妻・子どもに混ざり、Iさん一家が暮らす場所で、わたしとMさんが打ち合わせをしていたのだ。

よく考えると、すごく、変。

だけど仕事中に、赤ちゃんが泣くのも、それをあやす声が聞こえるのも、おばあさんの気配がするのも、それにまつわる家事の音がするのも、わたしには心地よかった。

パソコンを膝に載せながら、「なんかいいな」と、思った。

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夕方、打ち合わせ後、Iさん(弟)に、近所を案内してもらいながら話を聞いた。

「実質、今日が、うちのキックオフだったんですよ」

薄々気づいてはいたけど、その日わざわざ、わたし達が呼ばれ、彼らの「家」で打ち合わせをしたことには意図があったらしい。

高齢のおばあさんの介護のこと、子育てのこと、始まったばかりの3世代生活のこと。各地を行き来してクリエイターとして働いていくこと。自由な生き方をしながら、「家族」や「家庭」をしっかり引き受ける彼らには、不自由な課題もある。それを乗り越えるための方法が、環境と関係性を拡げ、網目の複雑なセイフティーネットを張ること。そのために、これからじわじわ家を開いていく予定らしい。なるほど。

「この窓、変えよう。外から丸見えになるようにしよう。あと、これからも是非遊びにきて。弟家族とも一緒に過ごしたらいいよ」

と、帰り際、Iさん(兄)に声をかけられた。

そういえば彼らは、わたしの家を改装するときも、「カーテンなんていらないよ。家の正面を庭にして、外に開くように窓を開こう」と提案したのだった。家族のことも、仕事のことも、楽しいことも、困った問題も、目隠しなしで進める。

それはとてもタフだけど、創造的な解決策になるかもしれない。

うちの「家」とも違う、新たな継ぎ接ぎの家を見つけた気がした。面白い。

 

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