リスの棲む家

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リスみたいだなぁ、と友人を眺めていた。彼女は自分の部屋でせわしなく動き、お客であるわたしの面倒と自分のことを同時にこなそうとしていた。

「寒くない? お水は? 飲まなくて平気? 待ってね、洗濯物干してくる。座っててね。何にもなくてごめん。床に布とか敷く? ああ、ビール冷蔵庫に入れておけば良かった!! でもお布団は干しておいたからね。お客さんなんて普段は来ないからさー。そうだ、このあと過ごし方どうしようね? 海かな、お店かな。その前にお隣さんに一声かけてくる……!」

継ぎ目なく喋りながら、パタパタと動く友人。最初はわたしも「何か手伝えることないかな?」とそわそわしたけど、そのうちに「きっとこれが彼女の通常運転なんだな」と理解し、のんびり待つことにした。外で見てきた姿と違う。面白い。

そういえば駅から家に向かうまでの道中、近くの大きな神社に棲むリスの話をした。わたしが彼女に似ていると思うのは、その大きな神社の大きなタイワンリスではなく、小さな団地の部屋で昔飼っていた小さなシマリスのほうだ。いつも同じところを飛び跳ねていて、18時になるとコテッと眠るシマシマ尻尾のあの子。ゴクゴクとよく水を飲む姿まで彼女に似ている気がする。


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「4月末、空いている? 我が家のお隣さんとたこ焼きパーティやるんだけど、よかったら一緒に参加&うちに泊まっていかないかなーと」

そんな嬉しいお誘いをもらったきっかけは、彼女の「引越し計画」だ。引越し前に遊びに行きたいなあと伝えていたのだ。

訪れてみると、そこは素敵な一軒家だった。雰囲気のある住宅街、古い建物の味わいを残しつつ、基本機能は綺麗に改装された家屋。緑の多い一角にちょこんと建っていて、明るく優しい趣き。なんだか邦画のセットに出てきそう。柄ガラス越しの陽を浴びながら仕事ができる座卓の一角なんて、小説家の隠れ家みたいだ。しかも同じ敷地内に暮らすお隣さんは、近所で小料理屋を営む夫婦で、お呼ばれして美味しいご飯をいただくこともあるらしい。本当に映画みたい。

「こんないいところなのに、引っ越すんだね?」

愉快なお隣さんとの「たこ焼きパーティ」(……の予定が行ってみると「お好み焼きパーティ」だった。美味しかった!)の後、改めて聞いてみた。「うーん、悩んでるんだけどさ」と言いつつ、大きな問題は「夏」だそう。その街は、湿度が高いことで有名らしい。つまり、上手に管理しないと、夏にはカビが生えてしまう。昨夏に引っ越したときも、だいぶ苦労したとのこと。

長期出張が多い彼女だから、家をあけている間に風通しができない生活は大変そうだ。もったいないけど、わたしが彼女だったとしても同じ理由で引っ越すかもしれない。本当にもったいないけど。

それに、邦画のセットみたいな可愛い家は、「丁寧な暮らし」を連想させる分(そして実際そうしないと色々手がかかる分)、「丁寧にやりきれない暮らし」を浮き彫りにするに違いない。わたしも都内で古民家を借りていた頃、庭の雑草抜きが追いつかなかったり、台所を使いこなせなかったり、近所付き合いに参加しきれなかったり、「ちゃんと出来てない感」が少し重かった。家に対して後ろめたいというか。毎日忙しい上に、真面目な彼女のことだから、もしかしたらそういう気持ちも多少はあるのかもしれない。

でもそんな彼女の家は居心地が良くて、用意してもらったお布団もふかふかで、わたしはその夜、とても良く眠った。平屋で眠るのは好きだ。身体の下に土の気配がする。陽の入る加減も優しい。

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翌朝はふたりで思いきり寝坊して、遅めの朝ごはんを食べて身支度したらもう昼前だった。朝ごはんに出てきたゆで卵は完璧な半熟加減。美味しいと言うと、「へへへ。熱湯から入れて8分ちょっとで出すのがコツなの。ちょっとの具合が大切なのよー」と笑っていた。「ちゃんと出来た」という感じの笑顔。素敵だ。

1泊2日で思いきり遊び、帰りの電車では、出来事を色々反芻しながら家に向かった。彼女とわたしの共通点といえば、最近、何もないところで転んで怪我をしたことだ。わたしは両手をすりむき膝をうち、彼女はズボンが破れて足から出血した。「そいうのってちょっと落ち込むよね」とまた変なところで一方的に共感した。そう、いい歳して何もないところで痛い怪我をすると、具体的な痛み以上に心の中の何かが痛むのだ。人生の何かに関連づけてしまったりして。

余談だけど、リスといえば。

小学生の頃、『りぼん』で連載していた大好きな漫画があって(30代女性はわかるかも)。主人公の母親が「シマリスを頭上で飼っている変わり者の有名小説家」という設定だったのだ。いちいち読者を笑わせにくる、明るくて面白いママ。でも、話が進むにつれ、そのママにもなかなかの過去があることがわかる。とある事実を知り、普通の女の人生と決別した若き日のママが、「変な女として生きるしかない!」と開き直り、たまたま出会ったシマリスを頭で飼いはじめる……という衝撃の回想シーンは「一体どういうことだ」と思いつつ、小学生の心にも深く刻まれた。

「わたしたちは『むきだし』だから」と笑う、リスの友人を思い出しながら、あのママぐらい開き直ったら、お互いどんなことになるんだろうなと思った。いや、リスは頭上で飼わないけど。

まずは素敵なリスの家に、素敵な次の住まい手が見つかりますように。

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